『メビウス』は、2013年に公開された韓国の映画。
夫の浮気を知った妻が、夫だけではなく怒りの矛先を息子にも向ける…。
性と狂気に満ちた家族の姿を通して、人間の本質をえぐり出した、衝撃の問題作である。
監督は、『サマリア』(第54回ベルリン国際映画祭・銀熊賞受賞)、『うつせみ』(第61回ヴェネツィア国際映画祭・銀獅子賞受賞)、『嘆きのピエタ』(第69回ヴェネツィア国際映画祭・金獅子賞受賞)などで知られる、キム・ギドク。
父(夫)役をチョ・ジェヒョン、息子役をソ・ヨンジュ、母(妻)役と夫の浮気相手の女役をイ・ウヌが一人二役で演じている。
物語の主人公たちは、韓国のとある上流階級の一家。
以前から夫の浮気を疑っていた妻は、とうとう生々しい浮気の現場を目撃する。
怒り狂った彼女は、その晩寝ている夫の性器をナイフで切り取ろろうと試みるが、すんでのところで目覚めた夫の激しい抵抗に遭い、企みは失敗する。
しかし彼女は、同じく夫の浮気現場を目撃し興奮している思春期の息子に、その怒りの矛先を向ける。
なんと彼女は眠りについた息子の性器を切り取り、そのまま家を出て家族の前から姿を消してしまう。
性器がなくなったことで、排尿も自慰行為も満足にできない体になり、同級生からいじめられ、完全に生きる自信をなくしてしまった息子。
そんな息子への罪悪感から、父は自らの性器切除手術を受けるが…。
この作品では、全編を通して全ての登場人物に一切のセリフが当てられていない。
泣く・笑う・叫ぶなどの感情表現や、表情、体の動きだけで人物が描かれている。
浮気の他にも倫理的に問題がある描写もおおく、あまりにも過激でショッキングな映画のため、韓国内でも上映が一部制限されたほか、日本上映版は監督による再編集がなされた。
それほどまでしてキム・ギドク監督が描きたかったのは、家族、ひいては人間というものの本質なのだろう。それらがひたすらに詰め込まれている作品である。